イヤホンのチューニングには避けられない三角関係がある。
低域を沈ませれば中域が埋もれ、高域を伸ばせばボーカルが後ろに下がる。
帯域をすべて主張させながら破綻なくまとめるのは簡単ではない。
Kiwi Ears Quintetは、その難題を真正面からクリアしている。
派手さで“分かりやすい感動”を与えるタイプではない。
だが、長時間向き合うほど「このイヤホンは設計がうまい」と分かる。
そんなモデルだった。
試聴環境
- DAP:iBasso DX340(4.4mmバランス)
- Apple Music(ロスレス)
- イヤーピース:純正(付属品)
- 音量は普段より −2段階(小音量でも情報量が失われないため)
アニソン/ロック/メタル/J-POP/K-POPを偏りなく約5時間聴き込み。
DX340は解像度・分離・定位表現に優れたDAPだが、Quintetはその特性を過度に膨らませず“整理して提示する”方向へ落とし込んでくる印象だった。
音の骨格
Quintetの本質は、一文で明確に表現できる。
低域は沈む/中域(ボーカル)は前に出る/高域は天井まで抜ける。
それぞれが主張するのに、どれもやりすぎない。
この“全部主張して全部破綻しない”チューニングこそ価値。
スペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ドライバー構成 | 10mm DLCダイナミックドライバー ×1 カスタムバランストアーマチュア ×2 マイクロプラナートランスデューサー(MPT) ×1 PZTドライバー ×1 |
| 方式 | ハイブリッド(合計5ドライバー) |
| インピーダンス | 32Ω |
| 音圧感度 | 108dB |
| 再生周波数帯域 | 20Hz – 40kHz |
| ケーブル仕様 | 約1.2m / 銀メッキOFC / 3.5mmステレオミニプラグ / 2pin |
| 本体重量(ケーブル除く) | 約10g(両側) |
特にMPTとPZTは、煌びやかさ誇張ではなく高域の輪郭補正・微細情報の補完として静かに使われている印象が強い。
帯域ごとの詳細レビュー
低域 — 引き締まり・速さ・深い沈み込み
量より質が明らかに優先されている低域。
- アタックが鋭く、沈んでからの減衰が速い
- サブベースまで届くが膨らまない
- ミッドベースに頼る“誤魔化し”がない
迫力ではなく、輪郭とスピードで支配する低域。
中域(ボーカル) — 自然に“一歩前”
主役の立たせ方がとにかくうまい。
- 厚みではなく、定位と輪郭で前へ
- 楽器が密度高めでも消えない
- エフェクト強めのボーカルでも滲まない
“前に出るのに自然”。
この距離感コントロールは明らかに優秀。
高域 — スッと伸びる・空へ抜ける・冷たい透明感
痛さゼロのまま伸び切るのが心地よい。
- 天井が開いたような抜け方
- 粒立ちの細かさを保ったまま上へ伸びる
- キラつき演出でなく、鋭く澄んだ透明感
冷たい水で磨いたような高域という表現が近い。
解像度・分離・音場
| 項目 | 印象 |
|---|---|
| 解像度 | 高い(自然で誇張がない) |
| 分離感 | 非常に高い |
| 情報提示 | 分析的・整理型 |
| 音場 | 横方向はやや広い/前後は自然 |
“情報量の暴力”ではなく、
配置・整理のうまさで気持ちよく聴かせるタイプ。
音のキャラクター(温度感・質感)
Quintetは完全にクール寄りのキャラクター。
- 硬質・寒色・ドライ
- 湿度のない高解像
- 清潔感のある音
ウォーム・厚み・甘さとは真逆の立ち位置。
長時間使用で見えたこと
- 高域が刺さらないため長時間でも疲れにくい
- 小音量でも情報量が維持されるため集中して聴ける
- 曲ごとの表現が安定していてブレがない
- 低域が暴れないため耳が飽和しない
“派手さの快感”ではなく、完成度の快感がじわじわ効いてくる。
弱点・注意点
- 低音の物量・迫力・ドンシャリ成分を期待すると外す
- ぬくもりのある音が好きな人には硬く感じる可能性あり
- 味付けの強いイヤホンが好きな人には地味に聴こえ得る
逆に言うと、ここに違和感がない人にはQuintetは確実に刺さる。
結論
Kiwi Ears Quintetは、
“音の整理と精度を極めたクール系ハイブリッド”だ。
低域は沈む。
ボーカルは一歩前に出る。
高域は天井まで抜ける。
全部が主張するのに、全部が邪魔をしない。
派手に盛らず、破綻のなさ・透明感・精度で勝負するイヤホン。
厚みより輪郭
温度より透明感
迫力より正確さ
派手さより完成度
この価値観に共感できる人にとって、Quintetは長く“刺さり続ける”イヤホンになる。



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