はじめに
TRN Mermaidは、1DD+1BA+プラナー2発というドライバー構成から、どうしても「パワフルで分かりやすいトライブリッドサウンド」を想像してしまう。
だが、実際に音を出してみると、その先入観は良い意味で裏切られた。
Mermaidの第一印象は派手さや押し出し感ではなく、
音の立ち上がりから消え際までが非常に整っていることにある。
全体を通して刺激的な要素は少ないが、
その分、音楽の流れや余韻が自然に耳に残る。
このイヤホンは「強さ」ではなく、丁寧さで印象に残るタイプだ。
試聴環境
- DAP:FIIO M27
- イヤーピース:AZLA SednaEarfit MAX
- ケーブル:付属品(4.4mmバランス)
音質レビュー
低域:ゆったりと鳴り、下まで沈む
低域はトライブリッドらしいスピード感やパンチを前面に出すタイプではない。
立ち上がりは比較的穏やかで、アタックを強調する鳴り方ではないが、
- 量感は十分にあり
- サブベースまで自然に沈み込み
- 音が膨らみすぎたり、居座ったりしない
という安定感がある。
低域が主役になることはなく、
全体の土台として静かに鳴り続ける印象だ。
そのため中域をマスクすることがなく、
音楽全体の見通しを良くしている。
中域:ボーカルが自然な位置に収まる
中域、とくにボーカル帯域は非常に安定している。
- 不必要に前に出すぎない
- 引っ込みすぎることもない
- 輪郭が曖昧にならない
低域と高域が主張を抑えているため、
結果としてボーカルが自然に浮かび上がる。
いわゆるボーカル特化型のチューニングではなく、
あくまで全体のバランスの中で
「正しい位置に見える」中域という印象だ。
高域:シャープさよりも余韻を重視
高域にプラナーを2発使用している点は構成上かなり攻めているが、
音の方向性は意外なほど穏やかだ。
- シャープさを前に出さない
- 刺激感が少ない
- 伸びはあるが角が立たない
特に印象的なのは、音の消え方の美しさ。
高域だけが先に消えたり、逆に残りすぎたりすることがなく、
低域・中域・高域すべてが
同じテンポでフェードアウトしていく。
この帯域間の統一感が、
Mermaid全体の「聴き心地の良さ」に直結している。
解像感について
第一印象は「優しい音」だが、
解像感が低いわけではない。
- 微細な音が潰れない
- 残響や空間の情報がきちんと残る
- 音数が増えても団子になりにくい
輪郭を強調した分かりやすい解像感ではなく、
音の粗さや歪みを感じさせないことで成立する解像感だ。
聴き込むほどに
「情報が足りない」のではなく
「無理に強調していない」だけだと分かってくる。
全体のバランスと聴き心地
Mermaidは、どこか一帯域を主役にするイヤホンではない。
- 低域は控えめだが不足しない
- 中域は明瞭だが張り付かない
- 高域は伸びるが刺さらない
その結果、
音楽全体の流れが非常にスムーズで、
音量を下げても印象が崩れにくい。
長時間のリスニングでも
耳や頭が疲れにくく、
静かな時間帯との相性が良い。
まとめ
TRN Mermaidは、
トライブリッドという構成から期待されがちな
迫力や即効性を前面に出したモデルではない。
低域は量感と沈み込みを確保しつつ主張を抑え、
中域はボーカルを自然な位置に配置し、
高域はシャープさよりも余韻の美しさを優先する。
その結果として得られているのは、
音楽全体の流れと消え際までを丁寧に聴かせるバランスだ。
解像感も決して低くはない。
輪郭を誇張しないことで成立する、
静かで持続性のある解像感を備えている。
正直に言えば、
トライブリッドらしいパワフルさを求める人には
物足りなく感じる可能性はある。
しかし、音量を下げても破綻せず、
長時間聴いても疲れにくいという点は、
このイヤホンならではの明確な強みだ。
自分の好みとは異なる方向性でありながら、
「これはこれで、ちゃんと良い」と感じさせる完成度がある。
派手さを求める場面では別のイヤホンを選ぶだろう。
だが、静かに音楽と向き合いたい時間には、
自然と手が伸びる一本になる。



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