はじめに
TANCHJIM ORIGIN LOST MANORは、通常モデルのORIGINをベースにした限定版だ。
ただし、その違いは単なるカラバリや小変更ではない。
イヤホン本体のビルドクオリティ、背面に刻まれた意匠、そしてアートブックやアクリルスタンドを含む付属品一式まで含めて、
「音響機器」であると同時に「作品」として成立させようという意志が、最初から明確に見える。
実際、パッケージを開けた瞬間に感じる情報量は、
一般的なイヤホンのそれを明らかに超えている。
この価格帯にしては豪華すぎる付属品、工芸品寄りの筐体仕上げ、
そして“限定版”という立ち位置そのものが、
ORIGIN LOST MANORを単なるコスパ評価の土俵から意図的に外している。
本記事では、その前提を踏まえたうえで、
このイヤホンが音として何を選び、何を捨てているのか、
そして「この完成度は誰に向いているのか」を、
実使用ベースで正直に書いていく。
総評
TANCHJIM ORIGIN LOST MANORをしばらく使ってみた。
結論から言うと、これは第一印象で人を殴ってくるタイプのイヤホンではない。
むしろ逆で、使えば使うほど評価が静かに上がっていく、かなり珍しい方向性のモデルだ。
派手さはない。
低域ガツーンでもないし、高域キラキラでもない。
だが、その代わりに「音楽を邪魔しない」という一点に、異常なまでに真面目だ。

サウンド傾向:ナチュラル、過不足なし
全体の音作りは非常にニュートラル寄り。
- 低域・中域・高域に過剰な主張がない
- どこかを持ち上げて「それっぽく」聴かせる気がない
- 音楽そのもののバランスを崩さない
低域
量感は必要十分。
ベースヘッド向けではないが、制動が良く、輪郭が明瞭。
キックが遅れず、低音が被らないため、意外にもジャンル耐性は高い。
中域
このイヤホンの美点。
ボーカルは前に出すぎず、引っ込みもしない。
「綺麗」というより整っているという表現がしっくりくる。
高域
刺さりは完全にゼロ。
それでいて情報量が不足する感じもない。
派手さはないが、疲れないという価値を確実に提供してくる。
意外といけるジャンル:メタル
一見するとメタルとは相性が悪そうだが、実際はそうでもない。
- 低域が暴れないのでリフが団子にならない
- 歪みギターとボーカルの分離が良い
- シンバルが刺さらず、長時間聴ける
「テンションを上げるメタル向け」ではないが、
最後まで冷静に聴けるメタル用イヤホンとしてはかなり優秀。

M27との組み合わせとチューニング要素
DAPはFiiO M27を使用。
- ノズルフィルターはスタンダードが最もバランス良好
- 付属イヤピースは低域エンハンスがベスト
- 高域エンハンスは全体が軽くなり、ややスカる
このイヤホンは
下を支えてやると完成するタイプ。
高域を足すより、低域の密度を整える方が向いている。
装着感:かなり良い
ここは強調しておきたい。
- シェル形状が耳に自然に収まる
- 金属筐体だが重量バランスが良い
- 長時間装着しても違和感が出にくい
音の方向性と装着感が完全に噛み合っており、
「長時間使われる前提」で設計されているのが分かる。
ビルドクオリティと所有欲
正直、ここは価格の一因でもある。
- 金属筐体の仕上げが非常に丁寧
- 背面に刻まれた浅野てんきの浅彫りが美しい
- 主張しすぎないが、確実に印象に残る
これはもう
プロテクトカバー必須。
傷が入ったら精神的ダメージがでかいタイプの仕上がりだ。

付属品についての本音
アートブック、アクリルスタンド、特装パッケージ。
完成度は異様に高い。
ただし、冷静に言うと——
価格のかなりの部分が音と直接関係ないところに使われている。
もし付属品を削って音だけに振っていたら、
もう少し安くできた可能性は高い。
なのでこれは、
- 「音だけでコスパを語る人」には向かない
- 「プロダクトとしての完成度」を評価できる人向け
と、はっきり言っておく。


結論:刺激を求める人には向かない
TANCHJIM ORIGIN LOST MANORは、
- 低域ガツーン
- 高域キラキラ
- 初聴きでテンション爆上げ
こういう快楽系の音を一切やらない。
その代わりに、
- 音楽を崩さない
- 疲れない
- ジャンルを選ばない
- 長時間使える
という、地味だが強い価値を持っている。
テンションを上げるイヤホンではない
集中力を奪わないイヤホンだ
刺激は別のイヤホンで摂ればいい。
ORIGIN LOST MANORは、
静かに戻ってくる場所として優秀な一本だ。


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