はじめに
完全ワイヤレスイヤホン(TWS)は、すでに十分に成熟したカテゴリーだ。
ノイズキャンセリングは強力になり、接続は安定し、バッテリーも実用十分。
その一方で、多くの製品が「分かりやすい低音」や「より強いANC」といった方向に寄り、
音そのものの思想で差別化することが難しくなっている。
そんな状況の中、final が最新フラッグシップとして投入した
TONALITE(トナリテ) は、明らかに違う方向を向いた製品だ。
派手さで押すのではない。
スペック競争でもない。
TONALITEが真正面から取り組んだのは、
「人によって異なる“聴こえ方”そのものをどう扱うか」 というテーマである。
その答えとして搭載されたのが、
DTAS(Digital Twin Audio Simulation) という音色パーソナライズ技術だ。
本記事では、TONALITEを実際に使用した体験をもとに、
- DTASとは何か
- 音はどう変わるのか
- 実用面(ANC・アンビエント・装着感)はどうか
- ZE8000 / ZE8000 MK2と比べて何が変わったのか
を整理し、
TONALITEはどんな人に向いたフラッグシップTWSなのかを明確にしていく。
製品概要
- 製品名:final TONALITE(トナリテ)
- 発売日:2025年12月23日
- 価格:39,800円(税込)
finalにおける完全ワイヤレスイヤホンの最新フラッグシップという位置づけで、
研究ベースの技術と量産製品としての完成度を両立させたモデルだ。
試聴環境
本レビューは、以下の条件で行っている。
- 再生機器:iPhone 15 Pro Max
- 接続コーデック:AAC
※TONALITEはLDAC対応だが、iPhoneではAAC接続 - イヤーピース:付属 FUSION-G
- ANC / アンビエント:ON
AAC環境での試聴だが、
余計な色付けが少なく、音のキャラクターを把握しやすい条件でもある。
DTAS(Digital Twin Audio Simulation)とは何か
TONALITE最大の特徴が、この DTAS だ。
DTASは、2025年10月時点で 世界初(final調べ) とされる音色パーソナラライズ技術で、
ユーザー一人ひとりの身体形状や聴こえ方の違いを考慮し、
その人にとって自然に感じられる音色を再現することを目的としている。
なぜDTASが必要なのか
従来のイヤホンやヘッドホン(TWSを含む)は、
- 製品ごとに1つの「基準音」を設定し
- それをすべてのユーザーに届ける
という設計が基本だった。
しかし実際には、
- 頭の大きさ
- 耳の形状や耳穴の奥行き
- 肩や胴体の厚み
といった身体的な個人差によって、
同じ音でも鼓膜に届く音は変化する。
この差が原因で、
- 音色が不自然に感じる
- スピーカーや生音と違って聴こえる
- 「イヤホンっぽさ」が抜けない
と感じる人は少なくない。
DTASは、こうした個人差による音色のズレを補正するために開発された技術だ。
DTASの基本的な考え方
DTASは、単なるEQや周波数補正ではない。
- 音が頭部・外耳・胴体でどのように反射・回折するか
- その結果、どのような音色として知覚されるか
を、物理モデルと聴覚モデルを組み合わせてシミュレーションし、
音色そのものを再構成するというアプローチを取っている。
finalはDTASを、
「音色(timbre)の再現性を高める技術」
と位置づけている。
DTASの設定手順(所要時間:約40分)
DTASのパーソナライズ設定は、
専用アプリ 「final TONALITE」
(iOS 17以上 / Android 14以上推奨)を使用して行う。
所要時間は約40分。
簡易的なチューニングではなく、
身体形状のスキャンと耳穴内音響測定を含む、
本格的な音響測定プロセスである点は理解しておきたい。
- 身体形状のスキャン
スマートフォンのカメラで、顔・頭・耳・上半身を撮影。
付属のDTASキット(ARマーカーシール+ヘアバンド)を使用する。 - 耳穴内の音響測定
イヤホンを装着した状態でテスト音を再生し、
内蔵MEMSマイクで耳穴内部の反射・共鳴特性を測定。 - クラウドでの音響シミュレーション
取得したデータをfinal独自の音響・聴覚モデルで解析し、
個人ごとの音色プロファイルを生成。 - TONALITEへの適用
生成されたプロファイルを本体に適用し、
DTAS Personalizedモードが有効になる。
DTASの2つのモード
DTAS General(デフォルト)
- finalの蓄積データをもとにした汎用音色
- DTAS OFF時も、finalらしいクリアでナチュラルな音
DTAS Personalized
- 個人測定結果を反映した音色
- 低域の張り出し
- 中域の距離感
- 高域の自然な伸び
が変化し、ハマると明確な違いを感じるケースが多い。
アプリから 音色係数(Ref- / Reference / Ref+) の微調整も可能だ。
音質レビュー
DTAS ON時
低域は量感を過度に強調せず、前への張り出しが分かりやすい。
中域は自然に前に出て、ボーカルが近く感じられる。
高域は刺激的にならず、長時間聴いても疲れにくい。
初見でも「良い音」と感じやすい、非常に分かりやすい音作りだ。
DTAS OFF時
全体がすっきりと整理され、
特に高域の余韻や減衰が美しく感じられる。
音を俯瞰して聴きたいときに向くモードで、
録音の質や音作りの違いが分かりやすい。
ANC・アンビエント性能
ANCはトリプルハイブリッド方式を採用。
BOSEやSONYの最上位クラスほどの強烈さはないが、
圧迫感が少なく、音楽再生を邪魔しないバランス型だ。
アンビエントモードは非常に自然で、
人の声や周囲の環境音が違和感なく入ってくる。
実用性は高い。
装着感
装着感は非常に良好だ。
- 耳への収まりが良い
- 長時間使用でも違和感が出にくい
付属の FUSION-G イヤーピースとの相性も良く、
安定した装着感が得られる。
ZE8000 / ZE8000 MK2との比較
finalの過去フラッグシップである
ZE8000 および
ZE8000 MK2 は、
どちらも**明確に「聴き手を選ぶ音作り」**だった。
- 中高域の情報量を重視
- 低域は量感控えめ
- 音の構造を理解すると凄さが分かる
一方で、
初見では地味・低音が物足りないと感じる人も多かった。
TONALITEはこれとは対照的に、
- 中域が自然に前に出る
- 低域に不足感がない
- 高域が刺さらない
という、圧倒的に万人受けする音作りに仕上がっている。
主なスペック一覧(公式情報ベース)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | final TONALITE |
| タイプ | カナル型 完全ワイヤレスイヤホン |
| 発売日 | 2025年12月23日 |
| 価格 | 39,800円(税込) |
| ドライバー | 10mm ダイナミックドライバー(f-CORE for DTAS) |
| Bluetooth | Version 6.0 |
| 対応コーデック | SBC / AAC / LDAC |
| ノイズキャンセル | トリプルハイブリッドANC |
| 外音取り込み | 対応(アンビエントモード) |
| 防水性能 | IPX4 |
| 連続再生時間 | メーカー公表あり(条件により変動) |
| 充電 | USB Type-C / Qi ワイヤレス充電 |
| その他 | マルチポイント、低遅延モード、専用アプリ対応 |
まとめ
final TONALITEは、
- DTASという研究ベースの独自技術
- フラッグシップとして十分なスペック
- それでいて非常に分かりやすく、万人受けする音作り
を高い次元で両立した完全ワイヤレスイヤホンだ。
ZE8000 / ZE8000 MK2が
「理解してこそ良さが分かる、尖ったフラッグシップ」だったのに対し、
TONALITEは
「最初から良い音で、掘るとさらに面白い」。
finalがこれまで積み重ねてきた研究と試行錯誤が、
ようやく多くの人に届く形になった――
そんな印象を受ける一台である。



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