Kiwi Ears × HBB Punch レビュー | 贅沢な構成に潜む“惜しさ”。Knowles+Sonionの実力を活かしきれなかった理由 ―

音楽

はじめに

Kiwi Ears × HBB Punch。
構成だけ見れば、まるでハイエンド機のようだ。
10 mmダイナミックドライバー、Knowles BA ×2、そしてSonion EST ×2――
オーディオファンなら誰もが「これは来た」と思うラインナップ。

ただ、実際に聴いてみると第一印象は「全体的に眠い音」。
低域も高域もきちんと出ているのに、全体にキレがなく、熱量が伝わってこない。
「悪くはないけど、500ドル級としては物足りない」──そんな微妙な立ち位置の1本だ。


デザインと装着感

ハウジングは程よく高級感があり、造り自体は丁寧。
ただ、ステム(ノズル径)が太めで、イヤーピース選びがかなり難しい。
普段Lサイズを使っている人でも、ステムに装着した瞬間に傘が広がって一回り大きくなるため、装着感が変わってしまう。

純正イヤピは軸が硬く、やや密閉が強め。
その結果、音が篭り気味になり、高域の抜けやスネアのアタックが抑え込まれる傾向がある。
装着性を含めて“クセのあるフィッティング”だ。


サウンドインプレッション

低域

Punchの低域はとにかく量感豊富。
沈み込みが深く、アタックも程よく感じられる。
ただし減衰がやや遅いため、キレよりも厚みを優先したチューニング。
ズシンと沈むが、タイトさはない。
電子音系のベースラインやEDMのキックは気持ちいいが、ツーバス系メタルではやや“もたつく”印象。

中域

中域はウォームトーン。
ボーカルは自然で、滑らかに前へ出る。
刺さりがなく、柔らかい発音が印象的。
特に女性ボーカルでは“声の芯”が残っており、ボーカル帯域の調整は秀逸。
一方で、スネアやエレキギターのアタック成分(2~5 kHzあたり)が控えめで、全体の勢いを削いでいる。

高域

ここが最大の「惜しい」ポイント。
Sonion ESTを搭載しているのに、キレが出てこない
理由は明確で、ESTは超高域の“空気感”のみを担当しており、アタック帯域(6 kHz前後)をほとんど鳴らしていない。
結果として、高域の伸びはあるものの、明瞭さやスピード感が不足している。

■ 音場・分離

音場は広めで、定位も悪くない。
ただ、低域が支配的なせいで空間の“押し出し”よりも“包み込み”が強く、ライブ感や奥行きがやや薄い。
リスニング的な聴きやすさ重視の設計。


惜しいと感じた理由

  • Knowles BAが中域寄りに使われており、ESTとのクロスオーバー帯域に谷がある。
  • DDのリリースが遅く、全体のトランジェントが丸くなる。
  • ESTの出力を抑えすぎて、“豪華構成の良さ”が聴感上で伝わらない。
  • 太ステム+硬軸イヤピの組み合わせが音の抜けを妨げている。

つまり、素材の良さを安全運転で抑えた結果、地味な仕上がりになってしまった
HBBの「聴き疲れしない音作り」という理念が裏目に出た形だ。


まとめ

Kiwi Ears × HBB Punchは、音楽を「ゆったり」「温かく」「リラックスして」聴きたい人には向いている。
ただ、スピード・エッジ・感情の熱を求めるタイプには響かない。
贅沢なドライバー構成が逆に枷になった、そんな印象の1本だ。

この構成自体はポテンシャルが高く、
もう少し反応の速いダイナミックドライバーを組み合わせれば、
一気に完成度が上がりそうな印象。

現行Punchは「素材の良さが分かる人ほど、惜しさを感じるイヤホン」。

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