はじめに
「正直、簡単な機能追加ならChatGPTに聞いて、うちの新人でもできちゃうんですよね」
クライアントからこう言われることは、もはや珍しくない。
実際、GitHub Copilot、Cursor、Claude、ChatGPTなどのAIツールを組み合わせれば、ジュニアエンジニアでも以前のシニア並みのコードを生み出せるようになっている。
では、エンジニアはどう進化すべきか。
半年間AIを使いながら「AIに任せられない領域」を探してきた中で、これからの時代を前向きに生き抜くために必要な3つのスキルが見えてきた。
AIが得意なこと・苦手なことを整理する
AIが得意なこと
- CRUDアプリのひな型生成(数秒で完了)
- エラーメッセージからのバグ修正(多くのケースで即解決策を提示)
- コードのリファクタリング提案(的確で網羅的)
- APIドキュメントやREADMEの自動生成(人間より整理されている)
- テストコードの作成(網羅的かつ高速)
ジュニア〜ミドルの業務の大半は、AIでカバーできる。
AIが苦手なこと
- 「なぜその機能が必要か」という要件の本質理解
- 長期的な技術戦略の設計(3年後を見据える力)
- ステークホルダー間の複雑な利害調整
- 前例のない課題への創造的な対応
- 責任を伴う最終的な意思決定
つまり、AIは「作業」には強いが、「判断」や「戦略」には弱い。
エンジニアはまさにこの領域で力を発揮できる。
スキル1:ビジネスアーキテクト力
“何を作るべきか”を導き出せる人になる
AIはコードを書けるが、課題を定義して解決策を設計することはできない。クライアントの要望の奥にある「本当の問題」を見抜ける人材こそ、これからの現場で価値を持つ。
身につけたいこと
- 業界知識を学び、財務諸表や事業構造を理解する
- 要件定義を「作りたいもの」ではなく「解決したい課題」から始める
- ユーザーストーリーマッピングやプロトタイプで検証を繰り返す
- ROIを基準に「やる/やらない」を判断できるようにする
例えば…
「在庫管理システムを作りたい」と要望されても、実際の課題が“部門間の情報共有不足”なら、Slackボットと簡易ダッシュボードで解決できる可能性がある。開発コストは1/10、成果はむしろ大きい。
こうした洞察はAIにはできない。
スキル2:AI駆動開発のマスター
AIを最大限に活用できる人になる
AIを恐れるのではなく、正しく使いこなすことが差になる。
習得すべきこと
- プロンプトエンジニアリング:複雑な要件を整理してAIに伝える力
- AIコードレビュー力:AIが生成したコードの欠陥を即座に見抜く力
- ハイブリッド開発フローの構築:AI生成→人間レビュー→AI改善の循環を作る力
例えば…
ECサイトの刷新であれば、設計はClaude、実装はCursor、テストはChatGPT、インフラコードはAIに任せ、人間は全体の調整と判断に集中する。
この「AIと人間の協働プロセス」をデザインできるエンジニアが、これからの現場をリードする。
スキル3:チーム・組織設計力
人を育て、導く力はAIに置き換えられない
コードをAIが書けても、チームを作り、心理的安全性を保ち、人を育てることはAIには不可能だ。
必要なこと
- AIを前提にした役割分担とプロセス設計
- メンバーがAIを脅威ではなく武器と感じられる環境づくり
- ジュニアに対するAI活用教育や、ドメイン知識の継承
例えば…
従来の「フロント/バック/QA」という役割を、AI時代に合わせて「プロダクトエンジニア」「AIオペレーター」「品質責任者」「ドメインエキスパート」に再編成する。
同じ人数でも生産性は大きく向上し、チーム全体の価値も上がる。
今すぐやめたいこと
- 新しいフレームワークの追いかけ — 技術動向のキャッチアップはAIに任せ、業界研究に時間を割こう。
- 完璧なコードへのこだわり — リファクタリングはAIに任せ、なぜそのコードが必要なのかを語れる力を養おう。
- 個人プレー — これから評価されるのは「コード」ではなく「設計」「チームづくり」だ。
今日からできる一歩
今週中
- ChatGPT PlusやClaude Proを契約して実際に使ってみる
- クライアントの業界本を3冊読む
- 社内で「AIツール活用法」をテーマにした勉強会を開き、成功談も失敗談も共有する
今月中
- 小さなプロジェクトでAI駆動開発を試し、従来との比較を取る
- 『イノベーションのジレンマ』『リーン・スタートアップ』『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』を読む
- クライアントとの会話で「技術的な話」より「ビジネス価値」を多く語る
結論:エンジニアは消えるのではなく進化する
AIがコードを書く時代、エンジニアの価値は「作業」から「課題定義」「解決設計」「チーム運営」へと進化している。
これは脅威ではなく大きなチャンスだ。
定型的な実装から解放され、より創造的で付加価値の高い領域に集中できる。そこにこそ、エンジニアの未来がある。
技術の歴史を振り返れば、生き残ったのは常に変化に適応した人たちだった。
AIと競うのではなく、AIと共創する。
そして人間にしかできない価値を全力で発揮する。
それが、これからのエンジニアにとって最も前向きな進み方だ。
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