はじめに
Campfire Audio ANDROMEDA。
2016年に登場し、その特徴的なグリーンの筐体と5BA構成、広大な音場で一世を風靡したイヤホンだ。
当時のハイエンドIEMを代表する存在のひとつであり、今でも「Campfire AudioといえばANDROMEDA」という人は多いと思う。
実は自分も発売当時に何度か試聴している。
そのときの記憶では、
- 高域にフォーカスされた音
- キラキラとした抜けの良さ
- 音場が広い
- 全体的に線が細い
という印象だった。
そんなANDROMEDAの初期モデルを、中古で久しぶりに手に入れた。
前回は、約20年前の名機「Ultimate Ears TRIPLE.Fi 10」を現代の環境で聴き直した。

今回はその「昔の名機を今聴いてみた」シリーズ第2弾。
登場から約10年。
FiiO M27という現代のハイエンドDAPで、初代ANDROMEDAをあらためて聴いてみる。
そして最初に音を出した瞬間、思った。
「……ANDROMEDAって、こんなにウォームだったっけ?」
記憶というものは、思っている以上にあてにならないらしい。
ANDROMEDAとは
ANDROMEDAは2016年に登場したCampfire Audioの5BAイヤホン。
構成は、
- 低域:BA ×2
- 中域:BA ×1
- 高域:BA ×2
という5ドライバー構成。
高域側にはCampfire Audio独自のアコースティックチャンバーを採用し、ネットワークだけではなく音響構造そのものを使って高域をコントロールしていた。
Campfire Audio自身も現在、初代ANDROMEDAを「広い音場」と「自然なトーン」を特徴とするモデルとして振り返っている。
いまや10BA、EST、骨伝導、平面磁界と何でもありになったIEM界隈を見ると、5BAという数字だけなら驚くようなものではない。
しかし2016年当時、ANDROMEDAは間違いなくハイエンドIEMを象徴する存在だった。
今回の試聴環境
今回使用した環境は以下。
- イヤホン:Campfire Audio ANDROMEDA 初期モデル
- ケーブル:ALO Audio Pure Silver Litz
- イヤーピース:final TYPE E
- DAP:FiiO M27
- 接続:4.4mmバランス
ケーブルにはCampfire Audioと関係の深いALO AudioのPure Silver Litzを使用。
4本の純銀導体を使用したケーブルで、Campfire Audio自身も現在「Brighter sonic signature」と説明しているモデルだ。
つまり今回の構成は、少なくともケーブル側でウォーム方向に寄せたものではない。
なお最初はAZLA SednaEarfit MAXを使用していたのだが、これが後述するようにかなり印象を変えた。
第一印象:「こんなにウォームだったっけ?」
最初にSednaEarfit MAXで聴いたとき、一番驚いたのは高域ではなかった。
むしろ、
中低域が太い。
想像していたANDROMEDAとかなり違う。
低音もしっかり出るし、中域にも厚みがある。
その結果、全体としてかなりウォームに感じる。
記憶の中のANDROMEDAは、もっと高域が強く、線が細く、冷たい音だった。
ところが実際に聴いてみると、少なくとも今回の個体はそんな音ではない。
むしろ音楽的で、少し柔らかく、肉付きのある音だ。
Campfire Audioは現在ANDROMEDAの系譜について、「Warm」「Musical」「Midrange-forward」という方向性を初代から続くキャラクターとして説明している。
なるほど。
10年前の自分の記憶より、メーカー自身の説明のほうが現在聴いている音にはずっと近い。
イヤーピースで音がかなり変わる
ここで面白かったのがイヤーピース。
最初に使用したSednaEarfit MAXでは、
- 中低域が膨らむ
- 低域の量感がかなり多い
- 高域の伸びが鈍く感じる
という状態だった。
正直、
「個体差か? それとも経年劣化か?」
と少し疑ったほどだ。
そこでfinal TYPE Eへ交換。
すると印象がかなり変わった。
中低域の膨らみが整理され、高域の存在感も出てくる。
音場も見通しが良くなり、ようやく記憶の中にあるANDROMEDAへ少し近づいた。
それでもウォームな基本傾向は残っている。
ANDROMEDAはイヤーピースや装着状態による変化がかなり大きいイヤホンなのだと思う。
この機種を中古で買って「思っていた音と違う」と感じたら、まずイヤーピースを疑っていい。
低域:量は意外とある。ただしキレはもう一歩
ANDROMEDAの低域は、思っていたよりかなり出る。
2基のBAを低域に使っているだけあって、中低域には十分な量感があり、音楽の土台が痩せることはない。
むしろ、
「ANDROMEDAって、こんなに低音出たっけ?」
と思うくらいだ。
ただし、現代のIEMと比較すると気になる部分もある。
キレがそれほど良くない。
低音の立ち上がり自体はBAらしく速いのだが、音の輪郭が少し丸く、余韻も含めてふくよかに聞こえる。
最近の優秀なダイナミックドライバーやハイブリッド機にある、
「ドンッ → スッ」
という鋭い制動感とは違う。
量感はある。
しかしサブベースの深い沈み込みや、空気を押し出すような物理的な低音もそこまでない。
このあたりは、やはり10年前のBA機だ。
個人的には、もう少しタイトでキレの良い低域のほうが好み。
中域:厚みはあるが、ボーカルは少し遠い
中域にも意外と厚みがある。
ここも「線の細いANDROMEDA」という記憶とは違った。
ギターやピアノにはきちんと実体感があり、音がペラペラになることはない。
ただしボーカルは少し遠い。
声そのものが引っ込んでいるというより、ANDROMEDA特有の広い空間の中で、センターが少し奥に定位する感じ。
最近のボーカルを目の前にグッと出してくるIEMと比較すると、距離を感じる。
その代わり、ボーカルの周囲に空間がしっかり残る。
声だけを主役にするというより、楽器を含めたステージ全体を見せるタイプだ。
高域:記憶ほどギラギラしていない
そしてANDROMEDAといえば高域。
ここが今回もっとも記憶との差を感じた。
確かに高域には独特の煌めきがある。
シンバルや弦楽器の倍音もよく見えるし、空間の広さを作る高域の表現は今でも魅力的だ。
しかし、
思っていたほど鋭くない。
もっと「シャキーン」と上まで伸びる印象を持っていたが、実際にはかなり滑らか。
Pure Silver Litzを使っているにもかかわらず、刺さるような高域にはならない。
高域の存在感はあるが、それを前面に押し出すイヤホンではなかった。
昔試聴した際の印象が間違っていたのか。
試聴環境やイヤーピースが違ったのか。
あるいは10年間で、自分が聴いてきたイヤホンの基準そのものが変わったのか。
おそらく全部なのだと思う。
全体的に「BA臭さ」はある
そして2026年の基準で聴くと、良くも悪くもBAらしい。
これは結構分かる。
- 音の立ち上がりが速い
- 音像が明確
- 楽器の分離が良い
- DDのような空気を動かす低域ではない
- 音の質感に少し人工的なところがある
いわゆる「BA臭さ」は残っている。
最近はBAでも非常に自然な質感の機種が増えたし、DD+BA+ESTなどのハイブリッド構成も当たり前になった。
それらと比較すればANDROMEDAからは、
「ああ、これはBAで鳴らしているな」
という感触がかなりある。
しかし、これは必ずしも欠点ではない。
BAだからこその明確な定位や分離、音場表現もANDROMEDAの個性になっている。
音場:ここは今でもANDROMEDAらしい
10年経っても魅力を失っていないと思ったのが音場。
やはり広い。
特に左右方向への広がりが自然で、イヤホンの筐体周辺だけで鳴っている感じが少ない。
楽器同士の間にしっかり空間があり、それぞれの位置も分かりやすい。
現代の超高解像度IEMのように細かな音を片っ端から掘り起こすタイプとは違う。
しかし「音楽が鳴っている場所」を作る能力はかなり高い。
ANDROMEDAが当時評価された理由は、今聴いてもちゃんと理解できる。
5BAだけでこの空間を作っていたのだから大したものだ。
FiiO M27との組み合わせ
今回はFiiO M27で試聴した。
M27の4.4mm出力は低い出力インピーダンスに設計されているため、ANDROMEDAのようなマルチBA機を鳴らす環境としても扱いやすい。
当然ながら駆動力は完全に余裕。
むしろANDROMEDA相手にはオーバースペックなくらいだ。
音像が崩れたり低域が緩くなったりすることもなく、ANDROMEDAそのものの特徴をかなり素直に確認できたと思う。
10年前のイヤホンを最新クラスのDAPにつないで聴く。
冷静に考えるとかなり贅沢な遊びである。
10年経った現在でも通用するのか?
結論から言えば、
十分通用する。
ただしTF10のときとは少し意味が違う。
ANDROMEDAは現在のハイエンドIEMと正面からスペック勝負をして勝つイヤホンではない。
低域の深さやキレ。
高域の伸び。
質感の自然さ。
絶対的な解像度。
そういった部分では、この10年間の進歩を感じる。
しかし、
- 広い音場
- 独特の中域
- 滑らかで煌めきのある高域
- 音楽的なウォームさ
- 5BAならではの明確な定位
これらをまとめたANDROMEDA独自の音は、現在でも十分魅力的だ。
そして何より、
「ANDROMEDAって、こういう音だったのか」
と10年ぶりに再発見できたのが面白い。
まとめ:記憶とは違った。でも、やっぱり名機だった
今回一番印象に残ったのは、
ANDROMEDAは、記憶していたよりずっとウォームだった。
ということ。
昔の自分は、高域の煌めきや広大な音場ばかりを強く記憶していたらしい。
実際には中低域にもかなり厚みがあり、低音の量も多い。
その一方で、低域のキレや質感、高域の伸びなどには10年という時間を感じる。
BA臭さも結構ある。
それでも音場を含めた全体の完成度は高い。
10年前の5BAイヤホンを、最新のDAPにつないで普通に音楽を楽しめてしまう。
それだけでも、このイヤホンが名機と呼ばれ続けている理由は十分だと思う。
TF10とは違う。
最新のIEMとも違う。
ANDROMEDAにはANDROMEDAにしかない音がある。
記憶の中のANDROMEDAとは違った。
でも、10年後に聴いてもANDROMEDAはやっぱりANDROMEDAだった。
昔の名機を今の環境で聴き直す。
このシリーズ、なかなか面白いかもしれない。
次は何を探そうか。


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