NUARL Inovatör レビュー|高級感と音質を両立した唯一無二のワイヤレスイヤホン

音楽

はじめに

完全ワイヤレスイヤホン(TWS)は、この数年で驚くほどの進化を遂げた。
かつては「コードがないから便利」という程度の存在だったが、今や音質・ノイズキャンセリング・装着感・アプリ連携・バッテリー持ちなど、あらゆる要素で各社がハイエンド有線イヤホンに迫る完成度を競い合っている。

そのなかで日本発のブランド NUARL(ヌアール) が放ったフラッグシップモデルが Inovatör(イノヴェーター) だ。
この製品が面白いのは、AirPods Pro2 や SONY WF-1000XM5 のように「使い勝手+ANC最強」を前面に出すのではなく、あえて“音質特化”という尖った方向に振ってきたところ。

しかも、価格は決して安くはない。
「高いけど、その分中身が伴っているのか?」というのは誰もが気になるポイントだろう。だが実際に使ってみると、単なる“ハイエンドTWS”の枠を超えた所有感と音質体験が待っていた。

NUARL独自の LCP振動板ダイナミックドライバー+xMEMSスピーカーのハイブリッド構成、デュアルDAC+バイアンプ駆動による 2×2 Sound設計、さらにユーザーごとの耳に合わせて最適化する Audiodo™ Personal Sound。そして2025年春のアップデートで追加された 空間オーディオ(Spatial Audio)

この記事では、そんな Inovatör を実際に使い倒して感じたことを、デザイン・ANC・設計思想・パーソナライズ機能・音質・ジャンル別相性・欠点と段階的に掘り下げていく。


公式スペック表(抜粋)

  • ドライバー構成:φ8 mm LCP振動板ダイナミック型 “NUARL DRIVER [N8]v4” + xMEMS “Cowell” MEMSスピーカー(各ドライバーを独立アンプで駆動)
  • 設計思想:「2×2 Sound」デュアルDACバイアンプ駆動+HDSS® 搭載
  • 音質補正機能:Audiodo™ Personal Sound、Audiodo™ Equalizer(Carl Falk監修)
  • コーデック対応:LDAC、aptX Adaptive(96k/24bit)、aptX Lossless、AAC、SBC、LE Audio(LC-3)
  • 空間オーディオ:ファームウェア v0.3.0(2025年4月)以降対応
  • サイズ・重量:イヤホン 約W25.4 × H19.6 × D27.3 mm/約6.7g(片側)、ケース 約D60 × Ø34 mm/約66.8 g
  • バッテリー:連続再生 約6時間(ANC OFF/SBC-AAC/音量50%)、ケース併用 最大約18時間
  • 接続仕様:Bluetooth 5.3(Class 1)、マルチペアリング(4台)、マルチポイント(2台)
  • その他機能:ハイブリッドANC(3モード)、外音取り込み、低遅延モード搭載

ケースとデザイン

Inovatörを手にしてまず感じるのは所有感の強さだ。ケースはマットな質感で高級感があり、金属的なアクセントが効いているため、単なる樹脂ケースにはない“ガジェット感”を演出してくれる。

さらに特徴的なのがシェル部分の模様。これが一つとして同じものはなく、個体ごとに少しずつ異なる模様が刻まれている。量産品でありながら“一点物”のようなユニークさを感じられるのは嬉しいポイント。イヤホンは性能だけでなくファッション的要素もあるので、この所有感は大きな魅力だ。

サイズ感も良く、ケースはコンパクトで持ち運びに苦労しない。ポケットや小型バッグにも収まり、外出先で取り出す瞬間の「映える感覚」もある。まさに持ち歩きたくなるプロダクトだ。


ANC(アクティブノイズキャンセリング)

ANCはBOSEやSONYほどの絶対性能はないが、日常使用には十分な実用性を持つ。
通勤電車では走行音を大きく削り、音楽やポッドキャストに集中できる。カフェでは周囲の雑音がスッと引き、作業環境が一気に快適になる。

人の声やアナウンスはある程度残るが、これはむしろ安全性につながる面もある。完全な静寂を求めるならBOSEやSONYだが、Inovatörは「音楽を聴くための快適な環境作り」にフォーカスしている印象だ。さらにANC ONでも音質が崩れにくく、自然さが維持されているのは大きな美点だ。


2×2 Sound

Inovatörの特徴的な設計思想が、2×2 Soundだ。
デュアルDACとバイアンプ駆動で各ドライバーを独立制御し、余裕のある音作りを実現している。

実際の聴感としては、音の分離感が高く、音場に余裕があるのが印象的だ。ボーカルと楽器が同じ帯域にあっても互いを邪魔せず、それぞれがくっきりと立ち上がる。ジャズやロックのように複数の楽器が入り組むジャンルで、定位が崩れず整理されて聴こえるのはこの設計の恩恵だ。

これは単なる「空間演出のトリック」ではなく、設計の根幹から音質を高めているアプローチといえる。InovatörがTWSでありながらオーディオ機器的な実力を発揮している理由はまさにここにある。


Personal Sound(Audiodo™)

Audiodo™ Personal Soundは、Inovatörを象徴する機能の一つだ。
専用アプリで簡単なテストを行い、左右の耳の聴こえ方を測定。その結果に基づいて音質を補正することで、自分専用のサウンドプロファイルが作られる。

補正前後を比べると、特にボーカルの明瞭さと高域の伸びやかさに大きな差を感じた。楽器同士の分離も改善され、音場がスッと開ける感覚がある。EQ調整で数値をいじるのとは違い、「耳そのものに最適化されている」という安心感がある。

加えて、Carl Falk監修のEQプリセットも搭載されており、ポップスやロックなどジャンルに合わせてチューニングできる。この組み合わせにより、初心者から上級者まで幅広い層に「音を自分に合わせる楽しみ」を提供している。


音質(詳細レビュー+比較視点)

低域

Inovatörの低域はアタック感と量感の両立が最大の特徴。タイトでスピード感のある打ち込みを感じつつ、沈み込みは自然で迫力も十分。ロックやEDMを聴いても「軽さ」を感じさせない。

中域

透明感と自然さが際立つ。ボーカルは音場に溶け込みつつも芯がしっかり残り、女性ボーカルの艶やかさや男性ボーカルの力強さが伝わる。ギターやピアノも粒立ちが明瞭で、混濁しない。アコースティック系やライブ音源で特に真価を発揮する。

高域

刺さらず滑らかに伸びる。シンバルやハイハットは煌びやかで耳に優しい。解像感は高いが誇張感がなく、聴き心地の良さが優先されている。クラシックやジャズの倍音表現も自然で、長時間リスニングに向いている。

音場・定位

横方向の広がりは十分で、定位も安定。窮屈さがなく、楽器の配置が明確に分かる。空間オーディオをONにするとライブ感が増すが、やや演出過剰に感じられる場面もあり、筆者はOFFで運用している。

競合機との比較

  • WF-1000XM5:低域の迫力ではXM5が優勢。ただし長時間聴くと疲れやすい。Inovatörはタイトさと自然さで有利。
  • AirPods Pro2:クセのない万能機だが、音楽的な質感やリアリティではInovatörに軍配。

総じて、Inovatörは「迫力」や「安心感」よりも「自然で長時間聴ける音質」を武器にしている。


ジャンル別の相性

  • EDM / ハウス:量感とタイトさを両立した低域で、長時間プレイリストも疲れにくい。
  • ロック / メタル:リフやツーバスが明瞭。分離感が高く、厚いバンドサウンドでも潰れない。
  • J-POP / ボーカルもの:声の艶や自然さが際立ち、歌モノに強い。AirPods Pro2より音楽的なリアリティを感じる。
  • ジャズ / アコースティック:楽器の粒立ちや余韻が自然で、定位も安定。小編成の録音で特に映える。
  • クラシック:弦や管の倍音が自然で長時間聴いても疲れにくい。スケール感を足したいときは空間オーディオON。
  • R&B / ヒップホップ:低域のノリが心地よく、ボーカルも埋もれず前に出る。リズムと歌の両立が取れている。

唯一の欠点

Inovatörは全体の完成度が非常に高いTWSだが、実際に使っていて唯一気になった点がある。
それはイヤホン本体をケースに収めるときの位置がシビアなことだ。ほんの少し角度がずれていると正しく収まらず、充電ランプが点灯しない。つまり「ケースに入れたら自動的に充電される」という安心感がやや薄く、きちんと所定の位置に合わせて収納する意識が求められる。

普段から注意していれば問題は回避できる。しかし、外出先で急いで収納したときなどには気を使う場面がある。全体の完成度が極めて高いだけに、この細かな扱いやすさの部分が余計に気になる。音質や機能が優れているからこそ、この小さなストレスが惜しく感じられるのだ。


まとめ

Inovatörは値段こそ高いが、単なる“ハイエンドTWS”に留まらない存在だ。
ケースとデザインの所有感、個体ごとに違うシェル模様のユニークさは「一点物感」を与えてくれるし、ANC・2×2 Sound・Personal Sound・空間オーディオといった機能面も充実している。

ANCはBOSEやSONYには劣るが日常には十分。2×2 Sound設計がもたらす分離感と定位の安定性、Audiodoによるパーソナライズ、そして自然で聴きやすい音質。どれも「音質特化TWS」の名にふさわしい。

おすすめできる人

  • 値段よりも音質と機能の両立を求める人
  • ANC最強より所有感と自然な音質を重視する人
  • 「一点物感」のあるガジェットが好きな人
  • EQやPersonal Soundで自分専用の音を作りたい人

おすすめできない人

  • ノイキャン性能だけを最優先したい人
  • バッテリー持ちにこだわる人
  • コスパ重視で選びたい人

結論としては、「値段は高いが、機能性と音質を両立した実用的なハイエンドTWS」。特に“所有感も含めて楽しみたい人”には強くおすすめできる一台だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました