はじめに
クラウドという言葉は今やビジネスでも日常生活でも当たり前のように使われています。オンラインストレージ、動画配信、ネット通販、SNS――その裏側には必ずクラウドが存在しています。ところが「自分でクラウドを触ってみたい」と思っても、最初の一歩を踏み出せずにいる人は少なくありません。理由は明快で、AWSやGCP、Azureといった有名クラウドは登録にクレジットカードが必要で、無料枠にも期限や制限があり、知らないうちに課金されるリスクがあるからです。初心者にとっては、心理的にも金銭的にもハードルが高いのです。
そこで強力な選択肢となるのが Oracle Cloud Free Tier です。特に「Always Free」と呼ばれる常時無料枠は、クラウド初心者にとって理想的な学習環境を提供してくれます。サーバー(Compute)、データベース、ストレージ、ネットワーク、セキュリティ、運用ツール――クラウドに必要な要素が一通り揃い、それらを期限なしで無料のまま試すことができます。
本記事では、2025年最新版の情報をもとに「Oracle Cloud Free Tierでどんなことができるのか」を徹底的に解説します。単にサービス一覧を並べるだけでなく、それぞれの使い道や実際の活用シーン、注意点、そして他クラウドとの比較までを厚く掘り下げます。
Oracle Cloud Free Tierとは?
Oracle Cloud Free Tierは、クラウド業界で後発だったOracleが市場を広げるために導入した施策の一つです。構成は大きく二種類。「Free Trial」と「Always Free」です。
- Free Trial … 登録後30日間、300ドル分のクレジットを自由に使える枠。期間中は有料サービスをフルに体験できる。
- Always Free … 名前の通り、期限なしで利用できる無料枠。制限はあるが、恒久的に無料で使える。
AWSやGCPでは「12か月限定」や「ごく一部サービスのみ」といった制限が目立ちますが、Oracleは「常に無料」を武器にしています。その結果「クラウド入門ならOracleから」という認識が広がりつつあります。
Always Freeで使えるサービス群
Oracle Cloud Free Tierの大きな魅力は、クラウドの主要要素を一通り網羅していることです。サーバーを立てたい人も、データベースを学びたい人も、インフラ構成管理や監視ツールを試したい人も、無料の範囲で体験できます。つまり「クラウドの縮図」をそのまま無料で体験できるのです。
具体的には以下のようなサービスがAlways Freeに含まれています。
- Compute(仮想マシン)
ArmベースのAmpere A1(最大4 OCPU/24GB RAM)、x86互換のAMD VM(1 OCPU/1GB RAM × 最大2台)。 - データベース
Autonomous Database(2つ/各20GB)、MySQL Database Service(無期限で利用可能)。 - ストレージ
Block Volume(200GB)、Object/Archive Storage(20GB)、月10TBまでのデータ転送。 - ネットワークとセキュリティ
Load Balancer、VPN、Vault(秘密情報管理)。 - 開発者向けツール
APEX Application Development、Resource Manager(Terraform対応)。 - 運用支援サービス
Monitoring、Logging、Notificationsなど。
ラインナップを見ると、単なる「お試し」ではなく、学習から小規模運用まで対応できる本格的な構成であることがわかります。
Compute:ArmとAMDを無料で両方試せる
クラウドの入り口はまず「サーバーを立てる」ことです。Oracle CloudではCompute環境が非常に充実しています。
- Ampere A1(Arm)
最大4 OCPUと24GB RAMを自由に割り当て可能。無料枠としては破格の性能。Arm環境に触れたい学習者やリソースを必要とする検証用途に最適。 - AMD VM(x86)
1 OCPU/1GB RAMの小型インスタンスを最大2台まで利用可能。ソフトウェア互換性が高く、Linux学習や軽量Webアプリの運用に向いている。
Armとx86を両方無料で扱えるクラウドは極めて珍しく、「性能重視ならArm、互換性重視ならAMD」と使い分けられるのはOracle Cloud Free Tierならではの強みです。
データベース:Oracle DBとMySQLを両方無料で学べる
クラウド学習で次に重要になるのがデータベースです。
- Autonomous Database
2つまで作成可能、各20GBストレージ付き。自動チューニング・スケーリング機能を備え、クラウドネイティブに最適化されたエンタープライズ級のDBを無料体験できる。 - MySQL Database Service
世界標準のオープンソースRDBMSを、期限なしで無料利用可能。SQL練習から小規模アプリのバックエンドまで十分対応。
Oracle DBとMySQLを同時に学べる環境は他クラウドにはなく、初心者から上級者まで幅広い学習用途に対応します。
ストレージや周辺サービスの充実度
ストレージも実用的です。
- Block Volume 200GB → DBやアプリ用に十分な容量
- Object/Archive Storage 20GB → 静的ファイルやバックアップ保存に便利
- 月10TBの通信量 → 個人開発や小規模アプリの公開なら余裕
加えて、以下のような運用・セキュリティサービスもAlways Free対象です。
- Load Balancer、VPNで安全な接続や負荷分散を実現
- VaultでAPIキーやパスワードを安全に保管
- Monitoring、Loggingで運用監視の基礎を学習
- Resource ManagerでTerraformを利用し、IaCを体験可能
「触るだけ」でなく「運用を学ぶ」までカバーできるのが大きな特徴です。
どんなことに使える?
クラウド初心者が試しやすい活用例:
- AMD VMにUbuntuを入れてSSHで接続 → Linux学習環境として利用
- WordPressをホスティング → 無料でブログを公開
- MySQLとComputeを組み合わせて → 簡単なTodoアプリを構築
- Terraformでインフラをコード化 → IaCの練習
- Nextcloudを構築 → プライベートクラウドを無料で実現
- 短縮URLやPastebin風サービス → 小規模な実用アプリの公開
「無料の範囲でどこまでできるか」を試すこと自体が、最高の学習体験になります。
注意点と落とし穴
魅力的なOracle Cloud Free Tierですが、注意点も少なくありません。
まず、SLAが適用されないため、稼働率は保証されません。障害が発生しても補償はなく、本番環境に使うのはリスクがあります。学習や検証には最適ですが、顧客向けのサービスを無料枠に置くのは危険です。
次に、サポートは限定的です。有料プランであれば24時間365日のサポートが受けられますが、Always Free利用者は基本的にコミュニティフォーラム頼みです。トラブルが起きてもすぐに解決できるとは限らないため、調査力が求められます。
リソース不足も課題です。人気のリージョンではComputeリソースが枯渇し、新しいVMが作れないケースがあります。日本リージョンでは特に起きやすく、その場合は海外リージョンを利用せざるを得ません。そうすると遅延が増え、国内利用には不便さを感じる可能性があります。
また、非アクティブリソースは停止・削除されることがあります。長期間利用しないDBやVMは自動で止まったり、場合によっては消されるので注意が必要です。
最後に、サービスごとの制限もあります。APEXは同時ユーザー数に制限があり、Autonomous DBは20GBまでと容量が限られています。これは無料の範囲を越えないための仕組みですが、大規模な利用を想定すると必ず壁にぶつかります。
他クラウドとの比較
AWS、GCP、Azureと比べてみると、Oracle Cloud Free Tierのユニークさがよくわかります。
AWS Free Tier は1年間限定で、t2.microやt3.microインスタンスを月750時間まで利用できますが、1年経つと自動的に課金に切り替わります。ストレージや転送量も少なく、学習には良いものの、長期的に無料で使うのは不可能です。
GCP Free Tier はf1-microインスタンス1台が無料で提供されますが、性能は非常に控えめで、転送量も1GB程度と少なく、本格的な学習には物足りません。
Azure Free Tier は30日のクレジットと一部サービスの12か月無料が中心で、こちらも期間が過ぎれば課金されます。
これに対し、Oracle Cloudは期限なしでAlways Freeが続く点で圧倒的です。さらにArmとAMDを両方無料で扱え、Autonomous DBとMySQLまで学べ、転送量は10TBという大盤振る舞い。他社と比較すると「無料のままどこまでできるか」の幅がまったく違います。
初心者がクラウドを学ぶなら、Oracle Cloudは最初の選択肢としてもっと広く知られるべき存在でしょう。
まとめ
Oracle Cloud Free Tierは、クラウド初心者にとって最高の入門環境です。ArmとAMDを選べるCompute、Autonomous DBとMySQLを両方学べるデータベース、豊富なストレージと転送量、運用やセキュリティの基礎を学べるツール群。これらをすべて無料で、しかも期限なしで利用できるのはOracleだけです。
確かにSLAがなく、サポートは限定的で、非アクティブリソースが削除されるといった制約はあります。しかし、それらを理解して活用すれば、クラウドの基礎から実践的な運用までを無料で体験できる環境として他に代えがたい価値があります。
AWSやGCP、Azureと比べても、Oracleは「期限なし」「リソース豊富」「実用的」という三拍子が揃っており、クラウド入門のハードルを大きく下げています。2025年にクラウドを学びたい人、副業や個人開発でコストを抑えたい人にとって、Oracle Cloud Free Tierは間違いなく必修科目です。
お金をかけずに、クラウドの基礎と実運用に近い環境を両立できる。これこそが「最強の無料クラウド入門」と呼べる理由です。
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