iBasso DX340は、486gの重量級ボディに据置アンプ級の出力を詰め込んだハイエンドDAPです。
本記事では、公式スペックから実際の音質傾向、使い勝手まで徹底解説します。単なる数値や仕様だけでなく、実際に聴いた体験をベースに「どんなユーザーに刺さるのか」まで掘り下げます。
主なスペックと外観
DX340は Snapdragon 665 + 8GB RAM / 256GB ROM を搭載し、Android 13と独自OS「Mango OS」のデュアルシステムを選択可能。AndroidモードでもSRCバイパスが可能で、ストリーミングアプリでも音質劣化を避けられる点は大きな強みです。
本体は SUS316ステンレス製ユニボディ で高級感があり、6.0インチ AMOLEDフルスクリーン(1080×2160)のディスプレイを搭載。実用性と高級感を兼ね備えています。重量は約486gとDAPとしてはヘビー級ですが、その分筐体剛性や安定感は群を抜いています。
AMP15モジュールと電源設計
DX340の最大の特徴は、新開発のアンプカード AMP15 を標準採用している点。
DC12V外部電源入力に対応し、据置環境ではさらなる余裕を持った駆動が可能です。出力は4.4mmバランスで 最大8.3Vrms(12V DC-IN使用時)、バッテリー駆動時でも 6.23Vrms と、ポータブル機の枠を超えるハイパワーを実現しています。
さらに注目すべきは デュアルバッテリー設計。アナログ部とデジタル部を物理的に分離した電源構成により、クロストークやノイズの干渉を抑え、透明度の高いサウンドを実現しています。この「電源の贅沢さ」は、据置アンプ級の音質に直結する大きな要素です。
Harmonic Digital Filter
DX340には「Harmonic Digital Filter」が搭載されており、倍音成分の付与により音のキャラクターを調整できます。好みに応じてニュートラルから味付けまで自由に選べるのはユニークなポイントです。
- H1:Original(ニュートラル、フラットな再生)
- H2:Natural(自然で柔らかい響き)
- H3:Even+(偶数倍音を増加、艶やかでリッチな音)
- H4:Odd+(奇数倍音を増加、エッジ感と切れ味を強調)
- H5:All(偶数・奇数倍音を両方増加、色付けを最大化)
実際に使ってみると、H1とH2はモニター的に聴きたいときに、H3やH5は音楽的な華やかさを加えたいときに重宝します。楽曲や気分に応じて切り替えられるのは、まさに“音を遊ぶ”機能といえるでしょう。
実際の音質レビュー
DX340のサウンドは一言で言えば「圧倒的な余裕感」。
低域は深く沈み込み、しっかりとした量感とタイトさを兼ね備えています。クラブ系の重低音はもちろん、ジャズのウッドベースも芯のある響きで再現。沈み込みと立ち上がりのバランスが良く、低域好きでも満足できる完成度です。
中域は厚みと密度があり、ボーカルは前に出てくるような存在感を持ちます。男性ボーカルは力強く、女性ボーカルは艶やかで、声の質感が非常にリアル。アコースティックギターの弦の擦れや胴鳴りのニュアンスまでしっかり聴かせてくれます。
高域は伸びやかで煌びやかですが、耳に刺さらず自然。シンバルはきらめきを残しながら消えていき、ストリングスの高音も余裕を持って鳴らし切ります。情報量は多いものの、音が硬くならない点が秀逸です。
音場は広大で、横方向だけでなく奥行きと高さも十分。ライブ音源ではステージの前後感や会場の空気感まで描き出し、オーケストラの多層的な響きも分離感を失わずに表現します。複雑なプログレッシブロックも一音一音がクリアに浮かび上がり、解像度の高さとスケール感が両立しています。
特に Sony IER-Z1R との組み合わせは絶品。Z1Rの得意とする「重厚な低域」「広大な音場」「煌びやかな高域」を余すことなくドライブし、まるで据置アンプに接続したかのような鳴りを実現します。携帯機でここまで鳴らせるのはDX340ならではの強みです。
バッテリーと駆動時間
デュアルバッテリー設計により、ノイズを抑えつつ安定した電源供給が可能です。
駆動時間はカタログ値で約11時間(ローカル再生時)。重量級筐体のわりにロングライフではありませんが、ハイパワー出力と高音質設計を考えれば妥当な数値といえます。USB-C充電には対応していますが、特段の急速充電規格(PDなど)には非対応です。
まとめ
iBasso DX340は、ポータブルの枠を超えて「据置級」の音を鳴らすDAPです。
ハイパワーAMP15、デュアルバッテリー設計、SRCバイパス可能なAndroidシステム、Harmonic Digital Filterによる音作りの自由度など、単なるハイスペックを超えた“音質ファースト”の思想が貫かれています。486gという重量や駆動時間の短さといった妥協点はあるものの、その見返りとして得られる音質は圧倒的です。
こんな人におすすめ
- 据置アンプ級の音質をポータブルで楽しみたい人
- IER-Z1RなどハイエンドIEMをフルに鳴らし切りたい人
- AndroidモードでもSRCバイパスでストリーミング音質を妥協したくない人
- 倍音フィルタで音のキャラクターを切り替えて楽しみたい人
- 「重くてもいいから最高の音を持ち歩きたい」と考えるオーディオファン
DX340は万人向けではありませんが、「最高の音を携帯する」という一点においては他のDAPを寄せ付けない存在感を持っています。まさに“ポータブルの皮を被った据置機”と呼ぶにふさわしい一台です。
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