箱根ガラスの森美術館、うかいが手放す日 —— 文化と経営の分岐点

美術

「え? ガラスの森が売却?」

箱根の人気観光スポット「箱根ガラスの森美術館」。
1996年の開館以来、日本初のヴェネチアン・グラス専門美術館として、多くの人を魅了してきました。幻想的な庭園と光を透かすガラス作品は、訪れるたびに「非日常」を感じさせてくれる存在です。

ところが2025年10月1日、この美術館がうかいグループの手を離れることになりました。
事業はダイコク電機の子会社「箱根ガラスの森リゾート」に移管されます。


売却の背景

  • 売却先:ダイコク電機の子会社
  • 売却額:事業部分は約2億円
  • 理由:老朽化に伴う投資リスク、レストラン事業とのシナジー不足

数字だけを見れば、美術館の売上は年間約10億9千万円、営業利益も約9千万円。十分な収益を上げている“優良事業”でした。
それでも「経営戦略上の整理対象」として切り捨てられたのは、ビジネスの冷徹さを物語っています。


うかいブランドが背負っていたもの

「うかい」といえば、“食を通じた非日常”を作り出すブランド。とうふ屋うかい、うかい亭、うかい鳥山……いずれも特別な日の食事に選ばれる存在です。

そのうかいが美術館を運営する意味は、「文化と食を融合させて、観光体験を完成させる」ことにありました。
展示を見て、庭園を歩き、最後にテラスで食事。——この流れは「ガラスの森」ならではの贅沢な時間でした。

だからこそ今回の売却は、単に美術館を手放す以上に、「うかいが描いていた文化戦略の一区切り」を示しているのかもしれません。


気になる「食事」の行方

ガラスの森を訪れた人なら、館内レストラン「カフェ・テラッツァ ウカイ」での食事を思い出すはずです。
展示を楽しんだあと、庭園や池を眺めながらパスタやデザートを味わう時間は、旅のハイライト。まさに体験の“仕上げ”でした。

しかし、売却後はこのレストランがどうなるのかは未定。
「うかいの味」がなくなることで、ガラスの森の体験は大きく姿を変えるかもしれません。


箱根観光にとっての意味

箱根は“美術館の街”としても有名です。彫刻の森美術館ポーラ美術館岡田美術館など、国内外の観光客に知られるメジャーな施設が揃っています。

その中で「箱根ガラスの森美術館」は異色の存在でした。
光を透かすガラス作品は写真映え抜群で、SNS時代には“映える箱根スポット”の代表格。観光動線の中でも確固たるポジションを築いていました。

その象徴がオーナー交代することで、箱根の観光地図にも小さくない影響が出るかもしれません。


ダイコク電機の思惑

ここで興味深いのは、買い手となった ダイコク電機の戦略
本来はパチンコ・パチスロ関連機器の大手メーカーですが、近年は中期経営計画のなかで「観光・文化・フードエンタメ事業の拡充」を掲げています。

今回のガラスの森美術館の取得も、その戦略の一環。
観光施設としての集客力、文化的なブランド力、そして飲食事業との相性を高く評価しており、「持続的な収益基盤を作る」狙いを明確にしています。

つまり、美術館の存続だけでなく、むしろ“観光・文化の拠点”として強化する方向性を見据えているわけです。


「文化 vs ビジネス」の現実

文化施設として大きな存在感があり、数字上も黒字。
それでも「シナジーがない」と経営判断で切られる。冷徹に見れば合理的ですが、感情的には「文化が金勘定に負けた」と映ります。

ただし一方で、異業種のダイコク電機が“新たな視点”を持ち込むことで、美術館が進化する可能性もある。
「文化をどうビジネスとして成立させるか」という問いに対して、今度は新しい答えが見えてくるのかもしれません。


おわりに

うかいグループが手を引いたことで、「箱根ガラスの森美術館」という場所は確実に変わります。
文化的価値を残しながら、経営的にも成立する形をどう作っていくのか。観光と文化の未来を占う試金石になるでしょう。

少なくとも、あのテラスで味わった食事を思い出すたびに「もうあの体験はないのかもしれない」と少し切なくなる。
でも、異業種のダイコク電機がどう新しい命を吹き込むのか——その行方を見届けたくなるニュースでした。

箱根ガラスの森美術館を2億円で売却。うかいからダイコク電機へ
株式会社うかいは、同社が運営する箱根ガラスの森美術館を株式会社箱根ガラスの森リゾートおよびダイコク電機へ売却することを発表した。
「とうふ屋」のうかい、箱根ガラスの森美術館を売却 ダイコク電機に - 日本経済新聞
高級料理店「とうふ屋うかい」を運営するうかいは7日、箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町)の運営事業を遊技機向けシステムのダイコク電機に売却すると発表した。売却額は2億円。うかいは同美術館の建物や美術品を24年11月にダイコク電機に31億円で売却していた。主力の飲食店や洋菓子の販売事業に経営資源を集中する。うかいは美術館の運営事業を分離し、ダイコク電機が2024年8月に設立した箱根ガラスの森リ

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